« free「蜜柑の原液」 | トップページ | 薬ウェディング? »

2008年7月28日 (月曜日)

お題「ピアス」

「ねえ あたしの耳ちぎってよ」

 

ぼくが誕生日プレゼントにあげた

ハートのピアスを耳に付け終えた

ところで彼女は急にボソッとぼくに

つぶやいた。

 

彼女は僕の目をみないで

机に肘をついて窓の外を

ぼんやりながめてる。

夕陽は、黄土色の校庭を

やさしく照らしてた。

 

「…………は?」

 

ぼくから思わず変な声がでた。

手からは携帯がスルリと

落ちそうになった。

 

「ちぎってよ、って、おまえ、

なに言ってんの?」

 

彼女は目だけをこっちに向けた。

さっきまで嬉しそうにピアスを

眺めてたのに。

 

おもえば、ピアスを

耳につけてるときから

彼女はおかしかったんだ。

 

急に表情が暗くなってさ。

 

さっきまであんなに嬉しそうだったのに。

あんなに嬉しそうにピアスを眺めて、

「ありがとう!」って……。

 

今はとても冷めた女性みたいに、

とても無愛想に窓の外を

ぼんやり、ぼーっと、眺めてる。

 

それでも彼女の耳についた

ハートのピアスはキラキラと

ひかってた。

彼女はやっぱり綺麗だ。

 

ぼくは回答にこまって黙り込んだ。

開いてた携帯を閉じて、

下をむいた。

 

「ほんとにあたしの事が好きなら、

あたしの耳、ちぎってよ」

 

彼女はさっきより心なしか

力強く言った。

 

「それとも、あたしの事、

すきじゃないの?

口だけなの?」

 

あれ…

彼女、こんな事いう子だったっけ…。

 

『好きだったら……』

 

彼女はこんな事いう子だったっけ。

いつもぼくのわがまま聞いてくれて、

ぼくが忙しくて相手を出来なくても

なんにも言わなくて、

いつもニコニコしてて。

 

いつもニコニコしてて……。

 

まるで今の彼女は別人だ。

 

「すきだよ、でもそんな事できないよ…」

 

ぼくは弱々しく言った。

 

彼女は、僕のほうを黙って見てて、

それから、ハァーと深いため息をついて。

 

「もう、いいよ。」

 

突き放したように言い放った。

というか、

 

彼女はぼくを突き放した。

 

 

彼女は、横の椅子に置いてあった

鞄をバッと乱暴に持って

勢いよく立ち上がった。

 

「もう、しらない。

 

きらい。」

 

そう言ったかと思うと

自分の耳から、

ハートのピアスを強引に引っ張った。

 

まもなくブチッ!!という生々しい音を

たてて彼女の耳から

「ハートのピアス」がとれた。

 

彼女はないていた。

 

ピアスには、血。

 

彼女の耳には、血。

 

彼女は取ったピアスを僕に

投げつけて足早に帰って行った。

 

僕は、彼女を追えなかった。

気持ちは彼女を追いかけている。

だけど肝心のからだは、

うごいてくれない。

 

彼女の足音はだんだんと

ちいさくなっていった。

 

ホントに帰っちゃったんだな、と

自分でも信じられないくらい

冷静にそう思った。

 

投げつけられたピアス。

投げつけられた血の付いたピアス。

 

夕陽は、その異様な光景をも

優しく照らしてた。

 

僕の心も、まさにそんな

夕陽のようだった。

突然の別れに、取り乱す事もしないで

こんなに冷静でいられるなんて。

ピアスを眺めながら、

 

「やっぱ、でも、こんなに、すきだ」

 

誰も聞いてない教室に

ぼくの独り言がやけに響いた。

 

ピアスについた血をみつめて、

 

 

 

イヤリングを

買ってあげればよかった、と思った。

 

 

僕は肘をついて

窓のそとをぼんやり見つめた。

 

 

おわり

|

« free「蜜柑の原液」 | トップページ | 薬ウェディング? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« free「蜜柑の原液」 | トップページ | 薬ウェディング? »