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2007年12月30日 (日曜日)

*Pedicure

「だからさ、何度も言うけど

あたしは魔法とか使えないから。」

あたしは机の上の

ペディキュア(マニキュア)

手を伸ばして言った。

 

佐古はあぐらを掻いて、雑誌に載って

いる人物を切り抜きながらチラッと

こちらを見て言った。

「でも俺、昨日この目で見たよ。

お前が指一本でペンを

宙に浮かしてる所。まじ驚いたからね。」

 

驚いた、と言ってる割にはこちらの

目を見ようともせず手を動かしながら

淡々と喋る。

 

最近あたしの家にいつのまにか

居座ってるおさななじみの、佐古。

気づいた時からもう佐古はあたしの

家に住んでるみたいになってる。

この家に住んでる張本人の

1人暮らしのあたしでさえ

こいつが居座ってることを自然に感じる。

別に追い出そうとも思わない。

 

「で、どうなんだよ。」

少し間をおいて佐古があたしに聞いた。

 

昨日、佐古が少し外出してるときに

魔法を使ってしまった。

誰にも秘密の、私の魔法。

 

少し離れた場所に置いてあった

ペンを取るだけだった、

ただそれだけだから自ら動いてちゃんと

取ればよかったのに、気を抜いて

思わず人差し指を立てて

ペンを浮かせてしまった、

   魔法を使ってしまった。

 

小学生の頃にみんなの前で使って

みんなから敬遠されるようになってしまった。

みんなが見た直後のみんなの、

あの驚いたような、それでいて

少し引いたような目を、あたしは

忘れることができない。

 

それ以来絶対あたしは人前で

魔法をつかわないと決めたのだった。

 

佐古が外出中だという事をいいことに、

うっかり気を抜いて使ってしまった魔法、

そこを昨日ちょうど帰ってきた佐古に

見られてしまった。

 

「どうって?」

聞こえてなかったふりをして

聞き返した。

 

「いやだから…。何回も聞いてっけど

昨日のアレはなんだったんだって

言ってんの。

ペン浮かせてたじゃん、こうやって。」

と言いながら佐古は持ってた

雑誌とハサミとポイッと投げて

両手の人差し指を立てて同時に

宙で円を描いて

昨日のあたしの真似をした。

 

あたしは少し彼のその動作を見て

またすぐ足に視線を戻した。

足の二本の指の爪が真っ黒になっている。

三本目の爪にペディキュアのハケを

移した。

 

「あんた夢でもみたんじゃないの。

なにそのバカみたいな動作。」

あくまでもしらをきる。

第一 証拠がないのだ。

こいつが何を言おうともあたしは

しらをきればいい。

 

「バカみたいって-…!!

いい加減白状しろよ、正直に

『YES』って答えるだけじゃん、

三秒もかからないよ、だから、ホラっ」

佐古は目をキラキラさせて言った。

 

 

あたしは少し佐古の目を見つめた。

佐古の目は、明らかに興味本位で

知りたがってる目だ。

あたしはまた目線を足に戻した。

小指の爪をやっと塗りおえた。

 

-あたしがそうだと認めたところで、

あんたは興味本位でしかないくせに。

 

あたしはもう片方の足の親指の爪に

ハケを持ってきて塗り始める。

 

佐古は黙ってあたしを見つめてる。

足に目線をやっててもこっちを見てる

佐古が視界に入ってくる。

さっきまで彼が熱心に

切り取ってた雑誌のページとハサミは

投げ出されたままだ。

 

あまりにも佐古の目線がしつこいので

ゆっくりと丁寧にペディキュアのハケを

動かしながらあたしは聞いた。

 

「あたしが魔法を使ってたっていう

証拠は?」

あたしでも納得できる証拠を

佐古が挙げる事ができたら、

あたしは佐古に正直に事を話そうと

なんとなく心で決めた。

 

佐古は目線を左下に移して

しばらくそこを見つめたまま考え込んだ。

 

あたしは少し佐古に期待していた。

正直に魔法の事を話した所で

別にあたしの事を理解して

分かってくれそうにないような気がしてた

けど、【魔法】という存在が心に

とどまっているにはあたしにはもう重すぎる。

誰かに話すことでこれから

少しでも不自由を

感じることはなくなる気がした。

あたしは動かしていた手を止めて

佐古の顔をしばし見つめていた。

  

佐古はしばらく左下に目線を移して

真剣に考えこんでいたが、

諦めたような目の色をして

あたしの目をみて、

 

「…わかんない」

とつぶやいた。

 

 

もう、いいや。

 

あたしは足に目線をおろし、

残っていた

足の小指のペディキュアを

塗った。両足の爪を塗りおえた。

 

塗りおえた直後、 佐古は急に

何事もなかったような顔にもどり、

さっき投げた雑誌とハサミを拾い集めて

元切っていた線をまたハサミで

追っていた。

 

ハサミでページを切り抜きながら、

佐古はふっと思い出したように

「今日の晩ご飯なに??」

とあたしに問いかけた。

 

「知らない、

カレーとかになるんじゃない。」

あたしはペディキュアのふたを

回して閉めてコトッとテーブルに置いた。

 

「ふーん。」

佐古は熱心に線をハサミで追っている。

 

…また人前で魔法を使ってしまった。

今度は気づいてないようだが。

 

 

あたしはなにもすることがなくなった

両手をひざの上にペタンと置き、

黙って外に目をやった。

 

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